みんなが働きやすい職場へ

更新日:2024年12月18日

摂津市鳥飼銘木町にある会社「パプアニューギニア海産」の代表取締役、武藤北斗さん。従業員の働きやすさを追及した職場づくりが行われています。インタビューでは、自社商品であるパプアニューギニア産のエビへのこだわりや、型破りな働き方を実現させた秘訣について迫ります。

武藤 北斗さん

摂津市在勤。父親の経営するパプアニューギニア海産に就職。2011年3月11日に起こった東日本大震災により宮城県石巻市の工場が津波で流される。その後大阪府に会社の拠点を移し、再スタート。2020年摂津市鳥飼銘木町に新工場を設立。2021年代表取締役に就任。「好きな日に働く」「嫌いな仕事はしてはいけない」という職場での型破りな働き方に注目が集まる。2021年WORK DESIGN AWARDグランプリ受賞、2024HRアワード入賞。SNS(FacebookInstagram, X, note)、Youtubeで自身の取組み等を発信。商品を摂津市ふるさと納税返礼品として出品。著書は「生きる職場 小さなエビ工場の人を縛らない働き方」。

 

添加物を使わない、品質の良いものを

ーパプアニューギニア産のエビを取り扱うきっかけは何ですか?


すごく遡りますが、最初にパプアニューギニア産のエビを取り扱い始めたのは、先代であるうちの父です。父が青年海外協力隊「JICA」に所属しているときに、パプアニューギニアからエビを日本で売ってくれないかという依頼があったことをきっかけに始まったプロジェクトでした。だから、僕らはパプアニューギニアのエビを日本でどのように売るかということが、最初のミッションでした。現在はそれぞれの政府は関係なく、お互いパートナーとしての取引を行っています。

また、パプアニューギニアのエビは、品質が高く、天然エビの中でもグレードが高いものです。このような、いろいろな良い面を考慮し、うちはパプアニューギニア1本で行った方が良いという判断で、現在もパプアニューギニア産のエビだけを取り扱っています。

エビだけの会社でも珍しいのに、さらに産地までこだわりを持っているというのは、かなり珍しいと思います。もう会社名にも入れちゃってますからね。

ーパプアニューギニア海産のエビのこだわりは何ですか?


漁獲したエビを船上で急速冷凍することで、非常に鮮度が良いエビです。

エビは鮮度が落ちると、殻の内側が黒くなり、それが、鮮度が落ちている証拠としてB級品として扱われます。そこで普通は、この変色を止める薬として、船の上で黒変防止剤という薬を使います。殻の色は変わりませんが、鮮度が落ちていることに変わりはありません。

パプアニューギニア産のエビはこの薬品を使用していません。薬を使用していないので、黒変する前に急いで凍らせないといけません。なので、結果的に鮮度が良くなる。このように原始的な理由で鮮度の良い、良質なエビとなっています。

また、パプアニューギニアの人達が薬品を使用していないということもあり、うちの工場でもその他の薬品や添加物は一切使っていませんし、エビを解凍して、それをなるべく早く加工する、ということをやっています。

言うのは簡単ですが、この作業が一番難しいですね。鮮度を保つことはできますが、手間が非常にかかります。そのため商品は、殻付き、むきエビ、エビフライの3種類だけに絞って作っています。

以前は餃子やシュウマイ等、いろいろ取り扱ったこともありましたが、種類を増やすとその分手間がかかり、1つのものに集中してぱっと作れないんですよ。品種を絞ることで一気に作るという流れができ、結果的に鮮度を保ったまま再び凍らせることができています。単純にそれがうちの商品が美味しい理由ですね。

ー他に工夫されていることはありますか?


工場の清掃には、全てシャボン玉石けんという無添加の石けんを使用しています。海のものを扱っているので、合成洗剤によって海を汚すのはダメだという考えと、刺激が強い合成洗剤だと従業員の手が荒れてしまうという考えからそうしています。

無添加の石けんでしっかりこすって洗うので、人件費がすごくかかります。
保健所の方が視察に来られた際、なぜこんなにきれいなのですか?と聞かれたことがあります。恐らくですが、合成洗剤でパパッと洗うのではなく、しっかりこすって洗う、ということを毎日やっているからじゃないかな、と思います。やっぱり水産工場だと生臭い匂いが充満してしまいそうですが、そうならないように気を使っています。また、働いている人もきれいな方がテンション上がりますしね。

 

常識にとらわれない、みんなが働きやすい職場へ

ー「フリースケジュール(※1)」や「嫌い表(※2)」のように、他では見ない一風変わった働き方を実践されていますが、現在の働き方になったきっかけは何ですか?


東日本大震災で宮城県の工場が津波で流された後、大阪府へ拠点を移すことになりました。宮城県から一緒に来てくれた社員が会社を辞めてしまったことで、最後には自分とパートさんだけになってしまったんです。

このような状況になった時、さすがにこれまでの働き方を見直す必要があるなと思いました。一緒にいる人が働きやすい職場にしようと。

そう決意した後はもう単純に、どうやったら働きやすい会社になるか、どういう職場だったら続けたいと思うかということをみんなから聞き、できそうなことをやっていくと、その中で発想が出てきました。

小さなお子さんがいるお母さんが、いつでも休みやすいと仕事をしやすいなと言ってきたときに、多分普通の会社だったら、電話したら休めるよとか、月に1、2回だったら大目に見るよとか、そういう話になるかもしれないです。だけど、やっぱりうちの場合は話が飛躍して、連絡なしで休めるようにするみたいな突飛なアイデアを出していきましたね。

うちがやったことは特徴的ですけれど、これらをやる前段階で大事にしたのは、単純にみんなの話に真摯に向き合い、それを受け取ってどうすればいいかということを考えるということです。その結果として、うちは「フリースケジュール」や「嫌い表」ができたという感じです。

※1 フリースケジュール:シフト制をやめ、好きな日に連絡なしで出勤・欠勤するシステム。日にち、時間に縛られず、従業員の個人の生活を大事にできるため、働きやすい職場となっている。
※2 嫌い表:従業員が嫌いな仕事や、やりたくない仕事に×(バツ)を付ける表。×を付けた仕事はやってはいけない。

 

いろいろな環境の人が来れるお店に

ーSNSやブログ等のいろいろなツールを用いてなぜ発信を続けられているのですか?


僕らの会社はこうして上手くいってるから、みんなに知ってほしいという思いがあり、発信を続けています。また、全てさらけ出せることしか会社ではやっていません。それこそ、会社の全体ミーティングをYouTubeで誰でも見れるようにしています。これは、うちがどういう基準で物を作っているか、従業員に対してどのように話しているか、また僕らの会社がどのようなものであるかを判断してもらえると思います。お客さんや、この会社のやり方おもしろいなと思った人が、どういう会社なんだろうと材料にしてくれるとありがたいです。

ー今後の展望はありますか?


フリースケジュールで働ける、エビフライ屋さんをやりたいなと思っています。

今のこちらの工場(パプアニューギニア海産のエビ工場)は、あえてみんなが仲良くせず距離を置くことで、人間関係をフワッとしていろいろな重圧とかを無しにしているんです。

お店をやるってなったら今度はその逆になるかな。お店のスタッフ同士は近い距離で。そこに障害のある人とない人、さまざまな環境の人が来れるようなお店にしたいなと思います。

(ちなみに、現在は摂津市内で物件を探し中です。誰か物件を紹介してください(笑))

また、今年に入ってから、毎月第3土曜日に工場の前でエビの即売会を実施しています。今後は、地域住民の方にもどんどん来ていただけるようにしていきたいですね。

&わたし